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抗命と立身出世主義 [感想]

永野護が 昭和20年12月に出版した「敗戦真相記」を読んだ。その正鵠を得た分析に驚かされた。


戦後日本の重大課題の根本問題だとして、青少年の教育問題を挙げ、次のように論じています。

   明治維新前における日本の教育目標は、武士としての人間の完成にあったが、明治以後はいたずらに欧米の物質文明を模倣することに急なるあまり、人間としての鍛練を忘れて技術の修得をもって唯一の目標とし、その人生観は立身出世主義に堕するに至ったのです。幸い、明治維新から大正の初期にかけては、日本の中心指導者に明治維新前の武士道的教育を受けた人たちが残存しておりましたので、かかる立身出世主義の技師的人物でも充分に補助的な働きをなし得た。いわば大黒柱がたくさんあったのですから、畳建具の役をする者が重宝がられたとも見られましょう。しかるに昭和年代に入り、維新前の教育を受けた人たちがすべて死に絶えたあとは、大黒柱のない建具ばかりつぎ合わせたような建物となり、そこに、この大暴風雨が襲ってきたのですから、ひとたまりもなく吹き倒されてしまった次第です

  その意味で私は、新しい人格教育の必要性を痛感せざるを得ません。この人格教育は、大東亜戦争最中、さかんに鼓吹された、いわゆる、みそぎとか、練成とかいうものと本質的に異なるものです。あの、みそぎなどと称する極めて短期間の実用的なる人物練成行事は、結果的に見ますと、我が国民に民族的自惚れを植え付ける魔術だったともいい得ましょう。これらの練成参加者に限らず、日本国民全体が、軍部がその侵略的野望を遂行する方針として採用した八紘一宇とか日本民族の優秀性とかいう心理的宣伝を、漫然と鵜呑みにして、いい気になっていたのですが、終戦後の今日、冷静に自己批判してみますと、日本の立ち遅れは単に科学的物資の方面だけでなく、人間的に見ても非常に遺憾な点が多かったことを、次から次に自覚せざるを得ません。

  この意味で、今後の教育問題は、日本再建の運命を根本的に決するものであり、その方向は、智能の士よりも、真理の人であり、従来の小手先の器用なる人間をつくる技術万能主義を改めて、人間として信用し得る人格本意の教育制度を確立すべきであると信じます。その意味で私は数百万にのぼる帰還将兵の今後の働きに対して大いなる期待をかけています。明治政府の中堅人物が維新の風雲のなかから輩出したごとく、大東亜戦線硝煙弾雨の中から、日本再建の大偉人が現れることを期待するのは、恐らく私一人ではありますまい。

(119~121頁から引用)

軍閥は解体したが、独善で、責任回避を本能とする官僚は残ってしまったので、日本の将来のために 官僚から特権的色彩を払拭する必要があることを力説しているが、正にそのとおりであろう。



敗戦真相記

敗戦真相記

  • 作者: 永野 護
  • 出版社/メーカー: バジリコ
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: 単行本

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