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不起訴処分、特に、「起訴猶予」について [報告]

 検察官が事件について公訴を提起しないこととした処分のことを『不起訴処分』と言います。

刑事訴訟法259条は「検察官は、事件につき公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者の請求があるときは、速やかにその旨をこれに告げなければならない。」と規定していますが、「事件につき公訴を提起しない処分をした場合」のことを『不起訴処分』と呼んでいます。

不安になって、e-Govで「不起訴」をキーワードにして法令検索をしてみたとろ、3件の法令が検索結果として表示されましたが、それらでは「不起訴」を定義した規定ではありません。「検察官が事件につき公訴を提起しない処分をした場合」のことを「不起訴」「不起訴処分」と呼称しているという理解でよいようです。

 さて、この『不起訴処分』の不起訴の理由ですが、おそらく30年振りに開いた、渥美東洋著「刑事訴訟法」(有斐閣)100頁には、

「①犯罪の嫌疑なしまたは不十分、➁犯罪の不成立、➂証拠不十分、④訴訟事件の欠如、⑤起訴猶予処分相当、の各場合には公訴は提起されずに、不起訴処分がされる。」(4~5行目)

続けて、

「①から➂は犯罪がないことに帰するので、『犯罪』の訴追をなしえない場合であり、④は刑法上犯罪は成立しているが、『訴追』をなしえない場合であり、⑤は犯罪を訴追しうるのに訴追を猶予する場合である。」(6~7行目)

と書かれています。

   また、101頁11行目から18行目では、起訴猶予について、次のように記述をしています。

   起訴をすれば有効である場合に、『犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないとき』は、起訴するか否かは検察官の合理的裁量に委ねられる(公訴を提起しないことができる)。これを起訴猶予という。

この処分は、犯罪が成立し、証拠が十分にあり、その起訴が有効にされることを前提にしてなされる。訴追や有罪判決が、帰って犯人の再犯や逸脱行為を誘発し、またはそれを固めてしうる条件となったり、社会的に有用な活動を弱めてしまったり、つまり、起訴が社会的に見て、むしろ有害な結果を生ずるか、不起訴の方が却って社会全体からみて有用な結果を生ずる場合に、合理的に起訴・不起訴の裁量権を検察官に与えたのである。裁量を合理的に保たせる基準が、かなり概括的なものではあるが二四八条に明記されている。


  (参考 「刑事訴訟法248条   犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」)


 告訴事件では、検察官が不起訴処分をした場合、請求すると、不起訴処分告知理由書の交付を受けることが可能です。

(参考 「刑事訴訟法261条   検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは、速やかに告訴人、告発人又は請求人にその理由を告げなければならない。」)


不起訴処分理由告知書例.png

 上記の画像例では、

(不起訴処分の理由)

暴行(告訴罪名 傷害)につき,起訴猶予

と記載されています。


 『起訴猶予』の説明をさせていただきましたのでご理解いただけたことと思いますが、

『起訴猶予』とは、刑法上犯罪は成立していて、検察官は 犯罪を訴追しうるのに 訴追を猶予する場合のことで、犯罪が成立し、証拠が十分にあり、その起訴が有効にされることを前提にしてなされる処分。

   訴追や有罪判決が、帰って犯人の再犯や逸脱行為を誘発し、またはそれを固めてしうる条件となったり、社会的に有用な活動を弱めてしまったり、起訴が社会的に見て、むしろ有害な結果を生ずるか、不起訴の方が却って社会全体からみて有用な結果を生ずる場合に不起訴とする裁量権を検察官に与えたものののこと

です。 


    「(不起訴処分の理由)  暴行(告訴罪名 傷害)につき,起訴猶予」の例に則して言えば、

検察官は、暴行罪(刑法208条)が成立し、証拠が十分にあり、その起訴を有効になしうるが、裁量的に被疑者の訴追を猶予した

というのが「暴行につき 起訴猶予」との不起訴処分理由書の記載の正しい理解ということになります。


 

   おそらく、起訴猶予を理由として不起訴処分がされていることを知りながら、知らぬ顔の半兵衛を決め込んで、わざと、「刑事は不起訴」と言い募って、事情を知らない人に対し「嫌疑がなかった」との刷り込みをしている人が目につきました。

被害に遇った人の気持ちを逆撫でするばかりか、傷付けていることは分かっているのでしょうか。

「伊藤詩織さんの告訴は不起訴だった」「刑事は不起訴」という人がいたら、気持ちが逆撫でされないとでも言われるでしょうか。 なぜ「刑事は不起訴」となどと、攻撃的な発言をされるのでしょうか。

ダブルスタンダードに気付かない、あるいは、ポジショントーク ?



(令和4年2月25日午後7時25分追記)

不起訴処分理由書の上段には「様式第119号(刑事訴訟法第261条,規程76条)」と記載されていますが、「様式第119号」、「規程76条」とは、法務省が定める「事件事務規程」の「様式第119号」、「事件事務規程」の76条のことになります。

事件事務規程の本文は、法務省のホームページに掲載されていますが、様式は省略されています。様式について山中理司弁護士のホームページに掲載されていますので、関心がある方は山中弁護士のホームページでご確認下さい。

 

 


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コメント 3

会証

お疲れ様です

本件、いろいろな事案で「不起訴だから問題になってない」やら、酷いのになると「不起訴の見込みだから問題ない」も見かけます
同様に、逆に「不起訴だけど犯罪事実はあったんだ」等も

警察から検察送致の際の意見付与も、提示の不起訴理由も、一般には公開されない事項と思います
特に不起訴理由について、告発人等を除き公開されない、特に被疑者に対しては伝えられない理由について、他の弁護士さん記述で見かけた事があります

(民事と刑事で判断が分かれた場合など、ややこしい事案もありますが…)

今回の引用文献記述は参考になりました
自らも各種考察時の参考にしたいと思います
by 会証 (2022-02-25 18:51) 

tomo-law

会証さん、コメントありがとうございます。
不起訴処分と、不起訴処分理由の一つである起訴猶予について、私自身も理解が深まりました。
ちなみに、刑事訴訟法の教科書やコンメンタール等、何冊か調べましたが、東洋先生の整理が「ぴか一」でした。白状しますと、正しく理解していたかというと怪しかったです。
立場は別として、皆さんが、間違った前提で間違った議論をすることがないようになれば、より充実した議論、討論がなされることになり、より建設的になるであろうと私は思っています。
by tomo-law (2022-02-25 19:32) 

tomo-law

 私の今回のブログに対して ネガティブな意見を述べられている方のツイッターを見付けました。
そのまま載せます。
          記
「刑事:侮辱は時効+暴行は起訴猶予 民事第一審:名誉棄損発言賠償10万円+額を叩いた 民事第二審:名誉棄損発言賠償10万円+額に触れた 担当弁護士はすべて同じ。 不起訴理由にお詳しいはずです。 ところでどんどん暴行の幅狭められてますやんw っていうか推定無罪じゃないんですかw」
   |
「『暴行(告訴罪名 傷害)につき,起訴猶予』とのことですが、被害を受けた議員は、「顔面、頚椎挫傷 安静加療1週間」という診断書までとっているのに、傷害罪ではなく、ケガのない暴行罪と認定されたんですね。 診断書はどうなってしまったんでしょう。」
   |
「『起訴猶予』は犯罪が成立していることが前提で、起訴しないのは検察官の裁量とのことですが、 告訴した側としてなんとしても犯罪があったことにしたい気持ちは分かりますが、 令和元年の暴行罪の不起訴率は70.9%、うち起訴猶予は68.3%。暴行罪の半数近くが起訴猶予のようです。」
   |
「『刑事は不起訴』で伊藤詩織さんの件を出していますが、確かにそう言って山口氏の無罪を主張する人は多かったです。 しかし民事では刑事事件にならなかったのが不思議なほどの判決。 対してこの件は、民事裁判を重ねるごとに暴行認定度合いが減り『刑事で不起訴』の裏付けになっています。」
   |
「起訴猶予」は初めて知ったことですが、それを、 「わざと、「刑事は不起訴」と言い募って、事情を知らない人に対し「嫌疑がなかった」との刷り込みをしている人がいる」 などと陰謀論にすり替えるのは、弁護士として道義的にいかがなものか。
   |
「ご自身が裁判結果に納得が行っておられないのは分かりますし、だからこそ河村市長はじめ減税日本は裁判では飽き足りず市議会にまでこの件を持ち込んで騒ぐのでしょうが。。 それより不正リコールの真相解明はどうなんでしょう。依頼人の利益を守れれば真相解明などどうでもいい感じでしょうか。。」


 大変ご立腹のようです。この方、「デマぎらい」を標榜されているようですが、私の真意を理解いただけないようです。非常に残念です。

 「暴行」とは法律用語としては「不法な有形力の行使」のことを言います。「暴行罪」について有斐閣の新版新法律学辞典を見てみますと、「他人の身体に暴行を加えたが、傷害にいたらない行為。刑法208条。暴行とは,他人に対し,不法に有形的攻撃を加えることを言う。なぐる,ける,突く,押すなどがその典型であるが,身体に害を生じさせる必要はなく,たんを吐きかけたり,強い音響を加えたりするような行為も暴行である。(以下略)」(1094頁)と説明されています。
ちなみに、「暴行罪」について、岩波広辞苑第四版では「人の身体に対して物理的な力を行使する罪。傷害に至らなかった場合をいう。」と説明しています。法律上の「暴行罪」の理解と相違があるわけではありません。
民事訴訟において、第一審の「叩いた」が、控訴審に「触れた」と認定が変更されていますが、控訴審でも、「触れた」行為が不法行為(民法709条)を構成する不法な有形力が行使であること、つまり「暴行」行為があったことを認定している点では変わりません。
弁護士にお知り合いがお見えでしたなら、質問されてみることを是非、お勧めいたします。
そうすれば、自分の理解が誤解であったこと、また、「暴行はなかった」と言い募ることが、誤ったデマを撒き散らしていることと同じことをしていることに、御気付きになられるのではないかと思います。

by tomo-law (2022-02-26 11:44) 

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