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高裁での許可抗告申立事件の許可決定率 [検討]

昨日のブログでは、

朝来市のデリバティブ訴訟の経過について触れ、現時点では、

大阪高裁の神戸地裁へ移送決定

に対し、SMBC日興証券と三井住友銀行が許可抗告を申し立てていることを書きました

(毎日新聞但馬版の今月17日の記事「朝来市:仕組み債問題・損賠訴訟 神戸地裁移送不服、許可抗告申し立て−−三井住友銀行など / 兵庫」)。

今日のブログの話題は、SMBC日興証券と三井住友銀行が申し立ててをした「許可抗告」についてです。

この許可抗告ですが、

新民事訴訟法(平成8年法律第109号、施行日平成10年1月1日)で導入された

決定手続に対する最高裁への不服申立ての制度で、

憲法違反を申立理由としている特別抗告とは、別系統のものです。

最高裁による重要な法律問題についての判断の統一を図りつつ、最高裁の過度の負担とならないよう配慮がされています。

具体的には、高裁が許可決定をしてくれると、最高裁への許可抗告があったとみなされることになっています(民事訴訟法377条4項)。

簡単に言えば、高裁による足切りがあり、

足切りに引っ掛かると最高裁で判断してもらえないことなります。

高裁による足切り基準ですが、

最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは抗告裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合(同法377条2項)

に該当するかどうかで、

該当しない場合は高裁により、

該当すれば、最高裁による判断がされることになります(ただし、最高裁の判断には、原決定が破棄だけでなく、抗告棄却も当然あります。)。

では、実際、高裁はどの程度の割合で、許可をしているのでしょう。

司法統計では、民事事件と行政事件に分けて、高裁における許可抗告申立ての新受件数、最高裁における許可抗告の新受件数を年度毎に集計しています(各年度の「第1-2表 事件の種類と新受件数の推移-最高,全高裁・地方・簡易裁判所」参照)。

最高裁における許可抗告の新受件数とは、高裁の許可決定があり、最高裁が許可抗告があったとして受理している件数ということになるはずです。

したがって、(期ズレによる誤差が生ずることになるのかは知りませんが、)

最高裁における許可抗告新受件数 ÷ 高裁における許可抗告申立ての新受件数 ( % )

が、高裁が許可決定を出している割合ということになります。

下図は、年度毎の、高裁における民事・行政の各事件での許可抗告申立て新受件数と、最高裁における民事・行政の各事件での許可抗告の新受件数を集計し、高裁におけるそれを「高裁 / 新受件数」、最高裁におけるそれを「最高裁 / 新受件数」として整理し作表したものです。

この表の一番右欄の「許可決定率(%)」が、

高裁が許可決定を出している割合ということになりますが、

せいぜい4 %台

ということになるようです。

許可してくれるのは、20数件に1件というわけです。

許可抗告・高裁許可決定率.jpg    

この60件余りの最高裁が受理した許可抗告事件の数について、

「少ないな」という感想を私は持ちました。

私の経験では、2件の許可抗告申立てをし、

1件は高裁で却下、1件は最高裁で棄却、というものでしたので、

「 高裁は許可決定は 2~3割 ぐらいかなぁ 」

と思っていましたが、そうではないんですね。

「許可抗告事件の実情」については、毎年、年末頃の判例時報の特集記事として掲載されます。

昨年12月11日の「判例時報 2164号 」の「許可抗告事件の実情 -平成ニ三年度-」(8~36頁)では、

著者である、綿引万里子宇都宮地方裁判所所長[前最高裁判所民事上席調査官]と今福正己熊本家庭裁判所訟廷管理官[前最高裁判所裁判所書記官]は、

「抗告が許可された事件のうち法令解釈に関する重要な事項を含まない事件の割合は決して少なくないものといえる。

抗告が許可された事件の中には上記のような制度の趣旨におよそ沿わない運用も相当数見受けられる」((8~9頁)

と述べられています。

最高裁は、最高裁が受け付ける許可抗告事件(約60件)は、制度趣旨に照らせば、もっと少なくて済むはずなのに、高裁がいい加減な判断をしてスルーさせている、という考えのようですね。

    

民事訴訟法

(許可抗告) 

第377条

1  高等裁判所の決定及び命令(第330条の抗告及び次項の申立てについての決定及び命令を除く。)に対しては、前条第1項の規定による場合のほか、その高等裁判所が次項の規定により許可したときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。ただし、その裁判が地方裁判所の裁判であるとした場合に抗告をすることができるものであるときに限る。

 前項の高等裁判所は、同項の裁判について、最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは抗告裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には、申立てにより、決定で、抗告を許可しなければならない。

  (略)

 第2項の規定による許可があった場合には、第1項の抗告があったものとみなす。

5~6  (略)

 (補足)

民事事件・刑事事件別の、 年度毎の、高裁での許可抗告申立て新受件数と、最高裁の許可抗告の新受件数を集計した結果は、下表のとおりとなります。

 民事事件と刑事事件別の許可抗告事件新受件数.jpg


朝来市のデリバティブ訴訟の管轄 [報告]

デリバティブによる損失を被った 兵庫県の 朝来(あさご)市が、仕組債を販売した SMBC日興証券と三井住友銀行を大阪地裁に訴えている訴訟で、管轄裁判所をめぐる 熱い戦いが現在、繰り広げられています。

経過は、複数の新聞記事を整理すると、

① 原告(朝来市)が昨年6月25日大阪地裁に提訴。大阪地裁は第1回口頭弁論期日として昨年9月12日を指定。

② 被告ら(SMBC日興証券と三井住友銀行)、東京地裁への移送の申し立て、第1回口頭弁論期日の指定の取消し。

③ 原告、被告らに対抗して、神戸地裁への事件の移送申立て。

④ 大阪地裁が東京地裁への移送決定(昨年10月)。

⑤ 原告即時抗告。

⑥ 大阪高裁、今月7日に、大阪地裁の決定を取消し、事件を神戸地裁へ移送するとの決定。

というものです(http://mainichi.jp/area/hyogo/news/20130110ddlk28010409000c.html)。

Q  なぜ、そもそも、原告が移送の申し立てをしているのか?

Q  読売新聞によれば、大阪高裁の判決では「基本の管轄裁判所は東京地裁」と述べられているようだが、どういう理屈で、神戸地裁へ移送したかのか ?

民事訴訟法17条類推という理屈か ?

という疑問を持ってましたが、

被告らが今月15日に許可抗告を申し立ててくれましたので(http://mainichi.jp/area/hyogo/news/20130117ddlk28010331000c.html)、

疑問が晴れることになるかもしれません。

(昨日の同タイトルの記事を誤って抹消してしまいました。

そのため、昨日のブログの内容と、内容が違ってしまっていました。

すみません。)