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人材を通じた技術流出を防止するための対策 [検討]

昨日のブログ(「社員との転職禁止契約」)の続きです。 

経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室は、昨年12月に、「近事の技術流出事例への対処と技術流出の実態調査について(PDF形式:4.71MB)」という資料を公表しました。

この資料には、

昨今の技術流出事例のご紹介と平成24年度の委託調査「人材を通じた技術流出に関する調査研究」の一環で実施したアンケート調査の結果概要を資料にまとめました。

との注釈が付されています(経産省のHP「営業秘密 ~営業秘密を守り活用する~」の「注目情報」参照)。

そのため、事例紹介とアンケート結果が載っているだけの資料かと思って、読みとばしてしまいそうになりますが、

実はそうではありません。

  

資料10頁には、知的財産政策室の政策スケジュールについて、

今年度の取組について として、

人材を通じた技術流出を防止するための対策の検討

〇  労働法や企業専門的な知識を有する学識経験者や弁護士等で構成される委員会を設置。

〇  技術流出を防ぐための企業の取り得る対策等について検討。

としています。

そして、15頁では、

不正者への備えとしての規程類や契約

 不正な技術流出に対する備えとしても、規程類や契約は重要。

実効性に欠けるものは、抑止力にならない。                       

例)退職後の期限の定めのない競業避止義務契約

〇 近年は、グローバル化や人材の流動化など社会経済情勢が大きく変化しており、最近の判例の傾向を分析することは、実効性のある、具体的な規程類や契約の策定に有益。

   競業避止義務契約の例   

 昭和45年の奈良地裁判決

☆ 「制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する」(奈良地判昭和45年10月23日)

 一方、最近10年間の競業避止義務関連の裁判例(41件)をみると、-地域的制限がなくても理由によっては容認されうる☆全国展開している企業の場合は容認(東京地決H22.9.30、東京地判H19.4.24)


-労働者の地位そのものでなく、機密情報に触れているか否かを重視☆執行役員でも時限性のある秘密情報以上の機密情報に触れる立場でないとして否定的評価(東京地決H24.1.13)-業種により企業の「守るべき利益」の認定に幅がある等となっている。

として、競業避止義務契約が技術流出防止に有益だと、議論の過程をすっ飛ばして、結論を既に述べてしまっています。

また16頁では、

人材を通じた技術流出に関する調査研究委員会が、

  判例調査等により、不正者に対する実効性のある具体的な対策について、規程・契約等の面から、実務面を踏まえた検討を行う。

  競業避止義務契約(規定)の検討

-使用者の正当な利益の保護と労働者の職業選択の自由

-判例から見る実効性のある競業避止義務契約(規定)とは

とでも提言したかのようなことを書いたりしています。

  

経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室が、近い将来、有識者の意見を踏まえた形をとり、

元社員からの技術流出の保護のためには、営業秘密の保護の徹底による保護だけでは不十分である。

元社員との競業避止義務契約の締結することによる防止策も検討の上、導入していくべきである

との考え方を示すことを前触れしているかのようなものです。

  

そんなことになれば、

競業避止義務契約の有効性を なかなか認めない裁判実務も、コペルニクス的転回を見せるかもしれません。

何せ、それが国策なわけですから。

(参考)

 「近事の技術流出事例への対処と技術流出の実態調査について(PDF形式:4.71MB)の15、16頁部分

15頁

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16頁

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