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約200年ぶりの退位 [感想]

平成も今日が最後。

天皇の退位は1817年の光格天皇以来とのことです(日本経済新聞2019年4月30日「退位  明治以降初めて」)。


前回退位された 光格天皇 というお方ですが、強い君主意識と皇血意識を持ち、朝儀や祭祀を再興復活させて、天皇と朝廷の権威を強化させた天皇でした(藤田覚著「幕末の天皇」、同「幕末から維新へ」29~48頁参照)。

天明7年(1787年)11月に挙行した大嘗祭を10世紀の貞観式・延喜式の形に復古させたり、中断したり、略式で祭られていた 新嘗祭を、御所内に神嘉殿を新造して祭ることにしたり、

御所が天明8年(1788年)の大火で焼失した際には、幕府と掛け合い、紫宸殿と清涼殿を平安時代の内裏と同じ規模で幕府に再建させたりしています。

加えて、嘉暦3年(1328年)以来となる伊勢神宮内宮外宮への奉納を実現されたり、幕府と交渉して380年ぶりに岩清水八幡宮臨時祭と賀茂神社臨時際を再興された天皇です。


余り知られていないと思いますが、天皇と朝廷の権力強化、幕末維新期の尊王思想や皇国観に強い影響を与えた、政治力を持った天皇でした。

「今回の天皇の退位は、光格天皇を習い、天皇家が政治権力の強化を図ろうとしているのではないか」という意見を述べている人は見かけませんでした。そんなことを言っても全く相手にされないというほど、象徴天皇制が広く社会に定着しているからなのでしょうか。


今回の天皇の退位は、天皇の退位等に関する皇室典範特例法 第2条の「天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。」を根拠としています。特別法で手当てをしています。

同法第1条では、

「この法律は、天皇陛下が、昭和六十四年一月七日の御即位以来二十八年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、八十三歳と御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、五十七歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精励されておられることという現下の状況に鑑み、皇室典範(昭和二十二年法律第三号)第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項を定めるものとする。

と立法趣旨を記しています。

例外中の例外ということをくどいほど述べていますね。

数えてみたら、第1条は 393字もあり、しかも一文。





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心理的虐待と暴力行為等処罰法 [困惑]

児童虐待防止法2条4号は、

保護者による、

児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、

児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同等の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼうもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を言う。)

その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を言うこと

を児童虐待の一類型として定義しています。


この児童虐待防止法2条4号の児童虐待を「心理的虐待」と言います。

どのような行為が、この心理的虐待に該当するかについて、

・ ことばによる脅かし、脅迫など。

・ 子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど。

・ 子どもの自尊心を傷つけるような言動など。

・ 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする。

・子どもの面前で配偶者やその家族などに対し暴力をふるう。

など

という行為が該当すると言われています(厚労省作成「児童虐待の手引き」第1章 子ども虐待の援助に関する基本事項 1. 虐待とは何か(2)  子ども虐待の定義 参照)。



前回のブログで引用した、朝日新聞デジタルの記事(平成31年(2019年)3月14日児童虐待の被害、過去最多1394人  うち36人死亡」)では、

昨年、警察が摘発した児童虐待事件は 1380件で、事件化が難しい心理的虐待は摘発数の2.5%  だった

と報じていましたが、そんな細かなこと誰も覚えていませんよね。


記事からは「心理的虐待が事件化が難しいこと」、「心理的虐待による警察の摘発件数が、摘発件数の総数1380件の40分の1の 35件 程度であること」ことを読み取ることができますが、

どうな罪名で心理的虐待が検挙されているのかは記事からは分かりません。


予想としては、脅迫罪、強要罪、あるいは、監禁罪 といった犯罪ではないかと思われるのではないかと思いますが、どうなのでしょうか。


その答えは警察庁生活安全局少年課が3月14日に発表した平成30年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」の16頁(「第3  児童虐待」「3 検挙状況等」「(3)  態様別の検挙状況」」)に掲載されています。


昨年1年間の心理的虐待での検挙件数は総数が 35 件 で、その内訳となる検挙罪名ですが、

1番は、 暴力行為等  28件

2番以下は、   強要 3件、脅迫  2件、監禁 2件

ということでした。


暴力行為等とは、暴力行為等処罰法のことです。この法律は、大正末に多発した博徒等の集団的暴力行為に対処すため制定された法律で、集団的・常習的な暴行・脅迫・器物損壊・面会強請・銃砲刀剣による加重傷害などを処罰するものです(条文はe-Gov「暴力行為等処罰ニ関する法律」参照) 。


下の表は、「平成30年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」の16頁(「第3  児童虐待」「3 検挙状況等」「(3)  態様別の検挙状況」」)のうち、「身体的虐待」と「心理的虐待」の箇所を抜き出したものですが、「身体的虐待」の方にも、「暴力行為等」による検挙が 平成30年では 3件 であるとなっています。

「身体的虐待」の「暴力行為等」と「心理的虐待」の「暴力行為等」は別々にカウントされています。「心理的虐待」の「暴力行為等」の検挙件数は「身体的虐待」のそれとは別のものであることになります。

心理的虐待-暴力行為等処罰に関する法律違反.jpg

暴力行為等による心理的虐待での検挙が、いつ頃からされているのかについても調べてみました。平成15年以前は分かりませんでしたが、それ以降については分かりました(心理的虐待-罪名別検挙件数.xlsx)。


その結果ですが、心理的虐待による暴力行為等による検挙は、平成22年以前はなく、

平成23年    1件

平成24年    6件

平成25年  12件 

平成26年    2件

平成27年    7件

平成28年  21件

平成29年  36件

平成30年  28件 

という結果でした。平成28年以降、積極的に活用されていることが分かります。


他の罪名を含め、罪名別の心理的虐待による検挙件数をグラフ化していみると下表のようになりました。

心理的虐待-検挙件数推移.jpg


心的外傷(PTSD)が傷害罪になるとことは最判により10年前に決せられています。

もし、心的外傷となるような虐待であれば、傷害罪(ないし暴力行為等)に該当する 身体的虐待 と分類されてしまうのではないでしょうか。
「暴力行為等処罰に関する法律違反」で検挙される 心理的虐待 とは、どんな被疑事実で、逮捕勾留されたり、検察官に送致されたりするのでしょう。
いろいろ調べてはみたのですが、分かりませんでした。
 
ギブアップです。知っている人教えてください。

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事件は現場で起きているのか [感想]



新聞各紙がその発表内容を当日には報道していましたが、今では 朝日新聞デジタルの記事(「児童虐待の被害、過去最多1394人 うち36人死亡」)しか読むことができる記事は見当たらないようです。


朝日の記事を読んでみると、

⑴   昨年一年間の全国の警察が摘発した児童虐待事件は 1380件。

事件として親や養親らを摘発した件数の約8割は身体的虐待で、傷害と暴行容疑が大半を占めた。強制わいせつなど性的虐待は前年比33・7%増の226件。事件化が難しい心理的虐待は摘発数の2・5%にとどまった。

⑵  全国の警察が昨年に児童相談所(児相)に通告した18歳未満の子どもは過去最多の8万252人。児相に通告した虐待で最も多いのは、言葉による脅しや無視など子どもの心を傷つける心理的虐待で、約7割を占める5万7434人(前年比23・7%増)。うち、子どもの前で配偶者らを暴行したり罵倒したりする「面前DV」が約6割の3万5944人。

ということを報じてきます。

⑴の 児童虐待事件 1380件は、「平成30年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」15頁の「第2  児童虐待」「3  検挙状況(1)  概況」のところを報じたものです。

平成30年では、児童虐待事件の検挙総数が 1380件あり、その内訳が 身体的虐待 1095件、性的虐待 226件、怠慢・拒否24件、心理的虐待35件 であることを説明しています。

⑵の警察から児童相談所への通告件数が 8万0252件であったとの箇所は、平成30年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」15頁の「第2  児童虐待」「1  通告児童数」のところを説明したものです。

平成30年における、警察から児童相談所への通告件数は 8万0262件で、その内訳が 身体的虐待 14,836件、性的虐待 260件、怠慢・拒否 7,722件、心理的虐待 57,434件(うち「面前DV」 35,944件) であったこととなります。

記事だと読みとばしてしまいますが、

                   児相通告件数       検挙件数

身体的虐待     14,836件           1,380件   

性的虐待            260件               266件

怠慢・拒否      7,722件                 24件

心理的虐待     57,434件                35件

 

 

※ 朝日新聞デジタルの記事では「検挙」のことを「摘発」と言い換えています。

京都産業大学社会安全・警察学研究所著作発行の「児童福祉に携わるひとのための「警察が分かる」ハンドブック68頁では「検挙」について「警察が被疑者を特定して、刑事訴訟法に基づく処分(逮捕又は送致)をすることを意味します。被疑者を逮捕したときは逮捕の時点、逮捕しないときは必要な捜査を終えて(その者の犯行であることを明らか にするのに必要な証拠の収集をし、書類を整えて)事件を検察官に送致(告訴・告発事件の場合は送付した時点で「検挙した」ことになります。」と説明がされていますが、この説明が一番正確であるように思います。

(下表は平成30年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」15頁を抜粋したもの)

20頁ー.jpg


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