「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)(人事院事務総長発)」(以下「指針」と言います。)では、
交通事故を起こした国家公務員の懲戒処分の指針についても当然、定めています。
指針の「第2 標準例」「4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係」では、人身事故について、
(2) 飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの)
ア 人を死亡させ、又は重篤な傷害を負わせた職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職又は停職とする。
イ 人に傷害を負わせた職員は、減給又は戒告とする。この場合において措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。
(注)処分を行うに際しては、過失の程度や事故後の応対等も情状として考慮の上判断するものとする。
としています。
下図に整理したように、指針では、措置義務違反がないとの前提での標準的な処分は、
- 死亡又は重篤な傷害 の場合 → 免職、停職、又は減給
- 傷害 の場合 → 減給、又は戒告
ということになります。
指針は、平成20年4月1日に改訂をされていますが、この平成20年の改訂は、
- 飲酒運転に係る標準例を見直すとともに、飲酒運転車両に同乗した職員等に対する標準例を新たに追加。
- 標準的な処分量定よりも重く又は軽くすることが考えられる場合を例示
- 「職場内秩序を乱す行為」の見直し
- 「出火・爆発」の見直し
の4点だったようです。
したがって、人身事故における懲戒処分の量定基準は、指針が平成12年に制定された以降、変更があったわけではありません。
指針が平成12年に制定された時点から、人身事故(措置義務違反がない場合)は「死亡ないし重篤な傷害の場合は、免職、停職、又は減給」、「傷害の場合は、減給、又は戒告」という基準に変更はありません。
ところで、昨日のブログに書いたA検事の交通事故は平成12年9月10日に発生したものです。
したがって、事故は、その年の3月31日に人事院事務総長が指針(「懲戒処分の指針について」)を発してから半年も経っていないで起きた事故となります。
このA検事の交通事故については、東京地検検事正が「訓告」にしています。
お復習いとなりますが、この「戒告」は法務省の内規に基づく職員に対する措置であって、国家公務員法に基いた懲戒処分ではありません。
A検事は、交通事故について懲戒とはなっていないというわけです。
人事院事務総長は、指針本文において、期各府省庁に対し、
「職員の不祥事に対しては、かねて厳正な対応を求めてきたところですが、各省庁におかれては、本指針を踏まえて、更に服務義務違反に対する厳正な対処をお願いいたします。
特に、組織的に行われていると見られる不祥事に対しては、管理監督者の責任を厳正に問う必要があること、また、職務を怠った場合(国家公務員法第82条第1項第2号)も懲戒処分の対象となることについて、留意されるようお願いします。」
と(結構過激な内容の)通知を出して、
各府省庁に対して、職員の不祥事に対し懲戒処分を厳正に行うよう通知しています。
A検事には、交通事故について、一番軽い懲戒処分である戒告にも、科されていないわけですが、それは、
交通事故における懲戒処分の量定では、「(注)処分を行うに際しては、過失の程度や事故後の応対等も情状として考慮の上判断するものとする。」との規定を適用があるが、A検事には同条項に該当する事由がある。その結果、A検事には懲戒処分を科するほどの非違行為があったわけではないと判断した。
ということになるのでしょう。
交通事故に厳しくなったのは最近のことで、それも厳しくなったのは飲酒運転です。
平成13年という交通事故に厳しくなかった時代が、このような処置を許したということかもしれませんね。
ところで、A検事は、同乗者の一人に、頸椎骨折で3ケ月の重傷を負わせているのに、正式な公判請求をされることなく略式命令で終わっているわけですから、A検事の「過失の程度」はゼロないしゼロに近かったということなのでしょう。