22日のNHK/NEWSwebによると、大阪市の橋下市長が、職員が仕事で使ったメールのデータについて調査を始めたと会見で明らかにしたことで、また議論となっているようです(「橋下市長 事前通知せずメール調査」)。
厚生労働省の指針に反し、対象の職員に事前に通知していないことが問題となっており、橋下市長は「厚生労働省の指針が間違っており、何の問題もない」という見解を示しているということだそうです。
ところで、ここで問題となっている「厚生労働省の指針」ですが、それは、旧労働省官房政策調査部総合政策課が平成12年12月20日に公表した、「労働者の個人情報保護に関する研究会」の「労働者の個人情報保護に関する行動指針」という名称の研究会報告書 のことを言っています。
この指針は、旧労働省内に設けられた「労働者の個人情報保護に関する研究会」(座長:諏訪康雄法政大学社会学部教授)が、平成9年以降続けてきた研究会の研究成果を平成12年12月に発表したもので(旧労働省官房政策調査部総合政策課「労働者の個人情報保護に関する研究会報告書」)、
指針の公表後、平成15年に個人情報保護法が制定されておりますが、この指針は今日まで一度も見直がされていないようです。「労働者の個人情報保護に関する研究会」がその後、どうなったのかもはっきりしません(検索結果参照)。
指針は、職場におけるビデオカメラ、コンピューター等によるモニタリングを行う場合には、使用者は労働者に対し実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知し、労働者の個人情報保護に関する権利を侵害しないように配慮しなさいと規定をしています。
6.特定の収集方法
(4) 使用者は、職場において、労働者に関しビデオカメラ、コンピューター等によりモニタリングを行う場合には、労働者に対し、実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知するとともに、個人情報の保護に関する権利を侵害しないよう配慮するものとする。ただし、次に掲げる場合にはこの限りではない。
(イ) 法令に定めがある場合
(ロ) 犯罪その他の重要な不正行為があるとするに足りる相当の理由があると認められる場合
この指針の解説では「6.特定の収集方法」部分について、まず、使用者による職場での労働者に関するモニタリング一般について次のような解説を加えています。
職場における労働者のモニタリングは、前述のとおり人事・労務管理上の様々な目的で行われているが、
判例(関西電力事件(最高裁第3小 平成7年9月5日労働判例680号28貢)、岡山電気軌道事件(岡山地判 平成3年12月17日労働判例606号50貢)、広沢自動車学校事件(徳島地判 昭和61年11月17日労働判例488号46貢)等)にも見られるように
職場内であっても私的領域が存在すると考えられ、
モニタリングの手段、程度によっては労働者の個人情報の保護を図る上で問題が生じる場合があるものと考えられる。
モニタリングについては、これまでの電話の録音やビデオカメラによる撮影等に加え、コンピュータ・ネットワークの利用に関わる新たな形態もみられるようになっており、
例えば、システムの維持管理を目的としてコンピュータ上に蓄積されたコンピュータの利用記録が労働者の勤務状況等のモニタリング目的に転用される可能性も考えられるようになるなど新たな状況も生まれている。
こうした中、近年における視聴覚機器、コンピュータの技術的な進歩と相まって、モニタリングが曖昧な形で行われた場合には、労働者の側にその不安感から精神的な圧迫、苦痛を与えるおそれが高く、個人情報の保護を図る上で問題が生じることが考えられる。
このため、モニタリングについても一定の要件の下に行われることが必要であり、(4)において、モニタリングを行う場合には、その実施理由、内容等について労働者に事前に通知すること等の一般的な配慮事項を定めることとした。
そして、モニタリング一般について解説を加えた上で、電子メールのモニタリングについて、次の解説をしています。
最近話題になることが多い電子メールやインターネットの接続状況のモニタリングについては、
私用の防止や企業等の機密情報の漏洩による損害防止、企業内の情報システムの安全確保等の目的で行われるものについては、
業務上の財産の保全」のために行われるものに当たると考えられる。
電子メール等のモニタリングのあり方については、なお今後の議論に待つところもあるが、
その実施に当たっては、第2の6の(4)に従って、
電子メール等の利用規則にその旨を明示すること等により、あらかじめその概要を労働者に知らせた上で行うことが適当と考えられる。
具体的な運用に当たっては、
例えば、電子メールのモニタリングでは原則として送受信記録あるいはこれにメールの件名を加えた範囲について行うこととし、
必要やむを得ない場合を除いてはメールの内容にまでは立ち入らないようにするなど、あくまでも目的の達成に必要不可欠な範囲内で行い労働者等の権利利益を侵害しないよう十分配慮することが望ましい。