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有料老人ホーム その2  [検討]

(今日の記事は弁護士の読者向けの記事で少し難しいかもしれませんが、我慢して読んでみて下さい。) 

 消費者契約法10条では、民法や商法で定める任意規定と比べて、消費者の権利を制限したり、消費者の義務を重くする契約条項で、信義則に反して、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とすると規定しています。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第10条  民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 この消費者契約法10条は、敷引特約(賃貸住宅明け渡しの際に、敷金(保証金)の一部を差し引く特約)が無効である主張する根拠となる規定であるわけですが、有料老人ホームの入居一時金の初期償却の規定も、差し入れた保証金から一方的に一部が差し引かれるという規定であるという点では、敷引特約と何ら変わりありません。

そのため、入居一時金についても、消費者契約法10条が適用され、初期償却がダメ(つまり無効である)という問題が潜在的にはあったわけです。

敷引特約の有効性がクローズアップされてくる過程で、入居一時金の初期償却にも消費者契約法10条が適用され、無効であるという見解がここ数年の間に、有力になってきたというわけではないかと思っています。

ところで、消費者契約裁判例を見てみると、敷引特約が消費者契約法10条違反で争われるようになったのは平成16年以降のようです。したがって、有料老人ホームの入居一時金の初期償却が10条に違反するという形で争われるようになったのは、敷引特約が争われるようになった平成16年以降のことなんだろうと思われます。

判例検索を使ってみると、有料老人ホームで消費者契約法を争点として争った裁判例は7件あるようですが、一番早い裁判例でも平成18年のもので、次は平成21年まで飛んでいます。

「FACTA」の記事では、昨年の老人福祉法の改正と、NPO法人消費者機構が厚労省、国交省及び内閣府に提出した意見書が提出されたことが、東京都の老人ホーム設置運営指導指針(ガイドライン)改訂につながったと評していますが、昨年になって、有料老人ホームの「入居一時金の初期償却は不適切」と言われだしたわけではありません。もう数年前からガイドライン改訂の機運はあったと思われます。

インターネットで検索してみると、社団法人全国消費生活相談員協会が、平成21年5月に有料老人ホームを経営する事業者に入居一時金を初期償却する規定は消費者契約法10条に違反しているので、その規定の使用を停止することを申し入れているという案件を見つけることが出来ます( http://www.zenso.or.jp/files/ume_A.pdf)。

東京都のガイドラインの改訂は、有料老人ホームの入居一時金の初期償却が無効という見解が強くなり、それが多数派に転じ、今後、少数派に転落することはないという状況を敏感に感じ取り、先駆けとして改訂がなされたと評されるものではないのでしょうか。


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