尾西毛織厚生年金基金 3 [調査]
朝日の先月30日の記事では、前述したとおり、尾西毛織厚生年金基金の平成22年度(平成22年4月1日~23年3月31日)の期末の財政状況を次のように報じています。
尾西毛織基金の積立金は25億円で、将来の年金給付のために必要な額の6割にとどまる。年金受給者1800人を現役世代300人が支えており、年間の取り崩し額は5億8千万円に及ぶ。
ところで、「年金倒産」で示されているD基金の財政状況は、平成21年度(平成22年4月1日~23年3月31日)年度末です。
「年金倒産」のD基金が、尾西毛織厚年基金のことであるならば、D基金の翌年の財務状況が、朝日の記事での、尾西毛織厚年基金の財務状況ということになります。
D基金の平成21年度の財政状況と、朝日の記事による、尾張毛織厚年基金の平成22年度の財政状況は、連続していなければなりません。
さてどうでしょう。
下表「D年金と尾西毛織の対比」は、D基金の平成21年度と、朝日の記事での、尾西毛織厚年基金の積立金等の数値を整理して並べた表となります。
この表を見る限り、D基金の次年度の財務状況が、朝日の記事による、尾西毛織厚年基金の平成22年度の財務状況とは連続していると言えそうです。
ただ、年金受給者の人数については、正直、はてな?です。
平成21年度の約2000人の受給者が、翌年度に、200人も減って、1800人となってしまうようなことは通常、考えられません。
もしや、朝日の記者が、厚生労働省の役人から、「尾西毛織の加入員は300人」、「加入員1人が6人の年金受給者を支えている」との内容の情報提供を受け、年金受給者を「300人×6人=1800人」と計算し、1800人として記事にしているのかもしれません。
年金受給者の点には、大きなはてな?が残りますが、D基金は、厚年基金の規模等からして、やはり、尾西毛織厚年基金のことで間違いないと言えます。
ところで、朝日の記事は、尾西厚年基金は、
「(年金積立金が)将来の年金給付のために必要な額の6割にとどまる」
と記事にしていましたが、
平成22年度末で、最低責任準備金(厚生年金の代行分)の不足額がいくらとなのか、その数字を示していません。
D基金が、尾西厚年基金であるのであれば、平成22年度末の最低責任準備金の不足額は、簡単に推計できます。
平成21年度の期末は「年金倒産」の図表6-1がありますので、貸方の年金積立金31億円を、25億円に換えて作表すれば出来上がりです。
下の「平成22年度の年金バランスシート(推定)」がその出来上がりです。
ただ、ここでは、最低責任準備金(厚生年金の代行分)は多少変動していることになるわけですが、そこまでは把握不可能ですので、その点は捨象しています。
また、事業所の任意脱退がないことを前提としています。
この推計を前提にすると、最低責任準備金(厚生年金の代行)は ▲23億円 の不足。
積立金は、最低責任準備金の52%(=25億円÷48億円)しかないことになります。
ですが、朝日の記事では尾西毛織厚年基金の最低責任準備金の積立率は 60% となっています。
もし仮に、この朝日の記事が正しいのであれば、
最低責任準備金の額は約42億円(25億円÷ 0.6 ≒ 41億6667万円 ) ということになります。
最低責任準備金は48億円のはずなのに、41.6億円?
6億円以上も少ないことになりますが、どう考えたらいいんでしょうか ?
一番可能性が高そうなのは、平成22年度中に、尾西厚年基金から任意脱退した事業所があり、その事業所が6億円の最低責任準備金の穴埋めをして基金から脱退し、加入員も約400人から300人へと 100人減少し、年金受給者も 約2000人から 1800人へと 200人減少ということなのではないかと思われます。
年金受給者が減少しない限り、最低責任準備金48億円が大幅に変動することは考えられません。事業所の任意脱退によって、基金の最低責任準備金の額が減った(縮んだ)と考えるのが正しそうです。
もし、そうであるならば、よく、危機的な時期に、揉めることなく、事業所は任意脱退できたものです。
※ 厚生年金基金からの任意脱退
厚年基金に加入している事業所が、基金の代議員会で3分の2の同意を得るとともに、事業所に属する加入員(=被保険者)の過半数の同意を得た上で、厚生年金の代行分と加算分の負担分を一括拠出して穴埋めすることによって、厚年基金から脱退する制度のこと。
(なお、鹿児島県建設業厚生年金基金のホームページの「任意脱退の手続」の説明が、分かりにくい中でも、一番分かりやすそうです。)
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