採用の自由と入れ墨 [検討]
大阪市は、入れ墨調査について先月31日に、教職員を除いた職員約3万3500人のうち113人に入れ墨があったとの最終報告を取りまとめました(大阪市「職員の入れ墨調査にかかる回答結果を公表します」)。
新聞報道によると、大阪市の場合は、大阪市の職員に採用されてから入れ墨を入れた者が相当数いるということだそうです。
この報道によれば、「採用時から入れ墨をしていた職員もいた」ということになります。
大阪市は、採用審査の際に、「入れ墨をしている人は採用しなければいいのに、なぜ、入れ墨をしている人をそもそも採用しているの? 」という素朴な疑問を持たれた方がいるかもしれませんが、話はそんなに簡単ではありません。
確かに、大阪市は、職員採用試験で、個別面接をしています( 例) 大阪市職員(事務行政(22-25))採用試験要綱)。
そのため、個別面接の際、面接官が受験者に、「入れ墨や、タトゥーをしてませんか」と質問し、受験者に答えてもらい、「している」という回答者は採用しないということは可能であります。
しかし、そもそも、面接の際に、受験者が「入れ墨や、タトゥーをしてるか、していないかを回答させる」という調査をしていいのか、どうか自体が問題となります。
また、仮に、そのような調査をしてもよいとしても、受験者が「入れ墨をしている」という調査結果によって、採否を決してもよいか、ということも問題となります。
私は、少なくとも、事前に告知した上であれば、 「入れ墨や、タトゥーをしてるか、していないかを回答させること」も、「回答結果によって採否を決めること」も有効であるという考えです。
ですが、私と違って、調査自体が無効だという見解の方が、弁護士でも何割かはお見えだとは思います。
もしかしたら、私のように、事前の告知という条件付で、採用面接時に入れ墨調査をすることは有効だと言う立場の人の方が、少数派なのかもしれません。
おそらく、大阪市も、(少なくともこれまでは、)「採用面接時に、受験者が入れ墨やタトゥーをしてるか、していないかを調査し、受験者にその回答を求めることは」は、受験者の人格やプライバシーを侵害することになるので、 「入れ墨やタトゥーをしてるか」を調査してはいけないという立場に立っていたと思われます。
そのため、大阪市の場合、(これまでは)市職員の採用に際し、「入れ墨やタトゥーをしていないこと」が採用基準にはなっていないし、また、入れ墨やタトゥーの調査もしていなかったんだろうと思います。
この問題は、職員を採用する際における「(採用者の)調査の自由」が論点となっている問題であると言えます。
労働法のスタンダードなテキストである菅野和夫著「労働法第八版」(126頁、第九版が最新版ですが、まだ買っていません。)では、私企業を前提としての解説ではありますが、
応募者の採否を判断する過程では、一人一人の応募者について判断の材料を得ることが必要になり、本人から一定事項について申告を求めるなどの調査が必要となる。
この調査については、応募者に対する選択の自由から派生する企業の自由が認められるが、応募者の人格的尊厳やプライバシーなどとの関係で、その方法と事項の双方において自ずから制約を免れない。
まず、応募者に対する調査は、社会通念上妥当な方法で行われることが必要で、応募者の人格やプライバシーなどの侵害になるような態様での調査は慎まなければならない(事案によっては不法行為になりうる)。
また、調査の事項についても、企業の質問や調査をなしうるのは応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性に関連した事項に限られると解すべきである。
と解説しています。
古い価値観に立っている私などは、
「行政サービスを提供する市職員としては、サービス提供を受ける市民に不快感が持たれないようにしなければならない。
入れ墨やタトゥーを嫌がる市民がそれなりの割合でいる、今という時代においては、入れ墨やタトゥーをしている市職員は適格性を欠くことになる。
したがって、市職員の採用時に、職員としての適格性を判断するため、採用者である市が『入れ墨やタトゥーをしているか』を調査し、受験者にその有無を回答させること自体、社会通念上、何ら問題があるわけではない。」
と考えてしまいます。
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