認知症の徘徊老人の電車事故と 監督者の監督義務 [感想]
昨日の中日新聞では、
名古屋地裁で、認知症の男性が電車にはねられたのは見守りを怠ったからだとして、電車の遅延の賠償金約720万円を遺族からJR東海に支払うように命ずる判決があった
との記事が掲載されていました(29日の「遺族に賠償命令 波紋呼ぶ 認知症男性、電車にはねられJR遅延」)。
初出の報道は、判決の翌日の、今月11日の日経の記事(「認知症男性、線路に入り死亡 電車遅れで遺族に賠償命令」)だったようです。
私はよく知りませんが、飛び込み事故について、鉄道会社は遺族に賠償請求をしているのでしょうか。
手掛かりがないので、新聞雑誌記事横断検索で、2000年以降を期間として、検索をしてみましたが、それらしい記事は下の記事くらいしか見つかりませんでした。
朝日新聞の2004年2月1日大阪朝刊「鉄道自殺、損害賠償額はいくら(ニュースのわき道)」 という記事(全464字) は、
鉄道関係者によると、実際に受けた損害額については遺族の方に請求するそうです。
具体的には、乗客をバス、タクシーや他社の鉄道で代替輸送した費用や払い戻した運賃、列車が損傷した場合の修理費などです。列車が大きく損傷することはあまりないので、請求額の大半は代替輸送費と、払い戻しの運賃となります。
事故で影響を受けた乗客の人数が多い場合は請求額も多くなり、1千万円近くになることもあります。「事故がなければ得られたはずの収入」については請求しないそうです。 (中略)
一方、自動車での踏切事故では列車や踏切設備の損害が大きく、修理費も膨大になります。1億円以上の賠償を求めた例もあるそうです。
と報じています。
今回のJR東海に限らず、鉄道会社は実損については賠償請求しているということになるようです。
ところで、今回の判決の評価ですが、
個別の事案に関し、担当裁判官が「監督義務者が監督義務を怠らなかったことは認定できない」と認定をし(民法714条1項但書)、
挙証責任から、
監督義務者の責任を認めただけで(同条本文)、
事例判決に過ぎない、
という捉え方もあるかもしれません。
しかし、痴呆の徘徊老人が引き起している事故は、表に出てきていないだけで、少なくはないと思われます。
高齢化が進めば ますます増えることでしょう。
関係各方面に今回が与える影響は、極めて大きいのではないかと思います。
(参考)
(責任能力)
第713条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第714条
1 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
法律の専門家に釈迦に説法ですが、損害賠償事案では、発生した損害をどのように当事者に分配するのが社会的に公平かという視点も重要になります。判決によりますと、死亡した本人は多額の現金不動産を所有していたとのこと、そうであれば家族の取るべき回避措置は十分であったか、遺族はまるまる相続をしておいて相手は泣き寝入りでよいのかということも判断の要素にあると思います。あくまで事例ごとの判断でこれを一般化して捉えるべきではないのではないでしょうか。
by NO NAME (2013-08-31 08:36)
私も NO NAME さんと同じく、今回の判決について、一事例に過ぎないと位置付けている点は変わりません。
NO NAMEさんは、「責任無能力者が資力を持っている場合には(持っていない場合に比して、)監督義務者の監督義務の内容はより高度のものになる」とお考えのようですが、そのような考えは(少なくとも、法律の世界では、)支持されない考え方のようです。
そうだとすると、「今回の判決は、亡くなられた老人の方がお金持ちだったから、遺族に対して賠償が認められただけですので、例外的な判決です」となど説明ができないことになります。
今回の判決に対し、どのような解説が加えられることになるのでしょう。
そう考えると、今回の判決は一事例という位置付けを超え、影響を多方面に及ぼしていくことになっていくんだろうなと思っている次第です。
by tomo-law (2013-08-31 11:24)