裏木戸からこっそり [感想]
改正社会保険労務士法が今月(2014年6月)18日に衆議院で可決され現在、参議院で審議中 です(経過については、産経ニュース2014年5月25日「社労士法改正案の素案判明 訴額引き上げで賃金トラブルへの関与拡大」参照)。
会期中での改正社労士法の成立は微妙な状況だというだそうですが(国会傍聴記by下町の太陽・宮崎信行氏の2014年6月18日のブログ「特定社労士が裁判でも陳述 社会保険労務士法の改正案が衆委員会可決 会期内の成立は微妙」参照) 、
改正法が成立した場合、裁判所実務へのインパクトは極めて大きいことになるのではないか と考えています。
今回の社労士法の改正点は、
1 ADR訴額の120万円への引上げ、
2 補佐人制度の創設、
3 一人法人制度の創設
第二条のニ
1 社会保険労務士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる。
2 前項の陳述は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない。
国会傍聴記by下町の太陽・宮崎信行氏は、補佐人となるには特定社労士である必要があるかのようなことを述べていますが、そうではありません。
改正社労士法第2条の2の「補佐人」になるには 特定社労士の資格はいらず、社労士であればよいことになります。
この改正社労士法第2条の2の規定ですが、規定を読んでみると、第1項、第2項とも、ほぼ弁理士第5条第1項、第2項の規定 と同じような体裁の規定であることが分かります。
具体的に見ていくと、改正法第2条の2第1項は、
弁理士法第5条第1項の 「弁理士は、特許、実用新案、意匠若しくは商標、国際出願若しくは国際登録出願、回路配置又は特定不正競争に関する事項について」の部分を、
「社会保険労務士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について」と、
置き換えるとともに、
弁理士法が「裁判所において、補佐人として、当事者又は訴訟代理人とともに出頭し、陳述又は尋問をすることができる」の部分を、
「裁判所において、補佐人として、訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる」との
修正を加えていることが分かります。
後ろ部分の修正は、最高裁判所との調整を踏まえてのものなのでしょうか。
ところで、改正社労士法の「裁判所において、補佐人として、訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる」ですが、社労士が裁判所に補佐人として陳述するためには、訴訟代理人が選任されていることを必要条件となっているのでしょうか。
仮に、訴訟当事者が 訴訟代理人を選任することなく、社労士を補佐人として選任したと述べて、社労士と連れ立って、例えば、労働審判の場に現れたとして、
地方裁判所の裁判官は、その補佐人として選任されたと言っている社労士に対し、
「改正社労士法第2条の2第1項の補佐人の要件を備えない。
裁判所は、あなたを 民事訴訟法第60条1項の補佐人としても許可しない」
なんて言って、その社労士だけに対して退廷を命ずるなんてことあるでしょうか。
もし仮に、そんなことはないはないのであれば、それは結果、
社労士に対し、「事業に関し労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項」に関する訴訟や労働審判、(民事調停も含まれる?)における
簡易裁判所及び地方裁判所での(尋問権以外の)訴訟代理権等の権限を与えたのと、同じことになる
のではないでしょうか。
(補足)
うっかりして税理士法のチェックをしていませんでした。改正社労士法第2条の2は、税理士法第2条の2 の規定の方とほぼ同じ体裁です。 改正社労士第2条の2は、税理士法第2条の2の体裁をそのまま流用したというのが正しそうです。
もっとも、日本税理士会連合会編坂田純一著「実践税理士法」の解説(73~75頁)を読んでみると、租税に関する争訟性が高い専門技術性を有していることに鑑みて、税理士に補佐人の立場で納税者に対する援助活動を創設したというようなことが書いてあります。
税理士の補佐人制度の創設は、規制改革委員会の提言があり、それを受けての税理士法の補佐人制度の創設だったようです(平成11年12月14日行政改革本部規制改革委員会「規制改革についての第2次見解」(175頁以下))、
社労士を それと同列に扱ってよいのだろうかという気がするのですが、
これが議会制民主主義の勝利、ということなのでしょうね。
税理士法第2条の2
1 税理士は、租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる。
2 前項の陳述は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、これの限りでない。
税理士法改正の際の国会における議論については、平成13年5月23日衆議院財政金融委員会議事録 等を参照して下さい。、
(参考)
民事訴訟法第60条
1 当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
2 前項の許可は、いつでも取り消すことができる。
3 補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。
弁理士法第5条
1 弁理士は、特許、実用新案、意匠若しくは商標、国際出願若しくは国際登録出願、回路配置又は特定不正競争に関する事項について、裁判所において、裁判所において、補佐人として、当事者又は訴訟代理人とともに出頭し、陳述又は尋問をすることができる。
2 前項の陳述及び尋問は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない。
改正社労士法は20日(金)、参院厚生労働委員会で継続審査となったようです。
参院のHP(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/186/meisai/m18605186041.htm)参照。
by tomo-law (2014-06-21 07:30)