AIJ投資顧問と事後チェック [検討]
私は、今回のAIJ投資顧問の問題は「事後チェックルールの整備をせずに、規制緩和を進めたこと」が原因だと考えます。
したがって、事後チェックルールの整備をせずに、規制緩和を進めたという点では、建築確認検査の民間開放を背景としていた、姉葉建築士の耐震偽装事件と同根の事件となります。
ただ、今回のAIJ投資顧問の問題では、(1) 投資運用業者が、(2) 莫大な金額(2000億円)の企業年金を運用していた、という前提があります。
投資運用業者への監督という観点から問題を見てみると、金融商品取引法を所管するのは金融庁なわけですから、金融庁の投資運用業者に対する金融商品取引法上の監督(責任)が問題となっているとの見方ができますが。
他方、企業年金の運用に関する監督という観点から問題を見てみますと、AIJ投資顧問が運用する年金は、大部分が、AIJが厚生年金基金から委託されたものというわけです。
ところで、厚生年金基金制度を規定するのは厚生年金保険法ということになります。
そのため、厚生年金法を所管するのは厚生労働省なわけですから、AIJの問題は「AIJに年金の運用を委託している厚生年金基金の運用」に対する厚生労働省の監督(責任)が問題となっているとの見方も十分可能だと言えます。
このように見ると、AIJ投資顧問の問題は、金融庁と厚生労働省の両省にまたがった領域の問題だという捉え方でできます。
そういう点で、国土交通省一省内での監督が問題となった姉葉事件と今回の件は違うと言えます。
したがって、単に、「金融庁の投資運用業者に対する監督が不十分であった」とAIJ投資顧問の問題を捉えるのは、事の本質を誤るのではないかと考えを改めました。
事件発覚までの間に、金融庁と厚生労働省との間で、譲り合いと、押し付け合いがあったのではないかと考えられるわけです。
こんな目線で、 昨日触れた、ウォールストリート・ジャナル電子版の「日本の格付け会社「格付投資情報センター(R&I)」が2009年にAIJ投資顧問の不自然なことについて金融当局と議論した」という記事を再読してみると、違和感を感じました。
私がR&Iから話を聞いた金融当局者であったなら、間違いなく、厚生労働省年金局に、「AIJ投資顧問の件、知っていますか?」、「どうしますか?」と連絡を入れます。
「厚生労働省年金局にAIJの件を連絡をし、AIJの件については、厚生労働省からの返事待ちの状態にしておくこと」が、金融当局者が責任を回避するための最善策であると考えるからです。
私が金融当局者なら、わざわざ、ハンドリングをして、黙っていたことについて後日責任を問われるような状態に自分を置くわけがありません。
今回のウォールストリート・ジャナルの記事は、もしかしたら、厚生労働省筋が、金融庁に全責任を押しつけるためにリークした謀略の可能性があるのではないかと思ってしまいます。
下図は、企業年金連合会のホームページから引用させていだだいた、厚生年金基金の1991年から2010年までの間の「契約形態別時価残高割合の推移」をグラフとしたものとなります(「契約形態別時価残高割合の推移」)。
グラフから言えることは、厚生年金基金の運用資産残高は現時で、約18兆円。
その3割、つまり、5兆4000億円を、信託銀行でも生保でもない、投資顧問(投資運用業者、投資助言・代理業者)が運用しているという現実があることです。
しかも、投資顧問の年金運用への関与を許したのは厚生労働省であったという経緯があります。
このような状況にあることから、厚生労働省年金局は、「投資運用業者や投資助言・代理業者の監督は、所管されている金融庁さんに全て任せてありますから、ウチは関係ありません」とは、口が避けても言えないわけです。
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