1級建築士の懲戒事例と懲戒基準 [豆知識]
先月25日には、平成24年度第1回目の「一級建築士の処分について」の公表があったところですが、
国土交通省は、平成18年度から「一級建築士の処分事例」を同省のホームページで年に数回、公表しています。
ところで、国土交通省は、1級建築士の懲戒処分について、ランク制の「一級建築士の懲戒処分の基準(平成20年11月14日制定)」を定めています。
この一級建築士の懲戒処分の基準の概要は、
該当する懲戒事由のランクを基本にした上で、
複数の懲戒事由に該当する場合や、個別事情によるランクの加重・軽減を加え、
さらに過去に処分を受けている場合にはランクを加重し、
以上の修正を加えた上で最終的なランクを決定し、
その決定されたランクに従い、下図の「処分区分表」が定めるランクが定めている懲戒処分を行う
ということになります。
このように、国土交通省が1級建築士の懲戒処分の基準を、予め定めているのであれば、
同省が公表する「一級建築士の懲戒事例」の懲戒処分の内容(免許取消とか、業務停止11月とか)は、
公表された懲戒事例の事例に、「一級建築士の懲戒処分の基準」を当てはめれば、
懲戒の内容がその基準に従ったものであることが容易に確認できると思われるかもしれません。
しかし実際には、そんなわけではありません。
「一級建築士の懲戒処分の基準」で、公表された懲戒事例の処分内容が基準どおりであったことを確認することなどは不可能です。
というのは、懲戒処分を受ける建築士は、違反行為を何度も反復継続していることが多いわけですが、そのような場合における懲戒処分の基準は大変あいまいになっているからです。
基準では、複数の懲戒事由に該当する場合には、どのランクに該当するかを判定し、その上で、個別事情も考慮することになっています。
その場合、どのランクに該当することと判定するか、また、いかなる個別事情を勘案するかについては、処分権者である国土交通省の裁量に委ねられることとなっています。
そのため、一級建築士の懲戒処分の基準から、「一級建築士の懲戒事例」の処分内容を、機械的(一義的)に導くことはできないことになっているわけです。
ただ、それでも、1級建築士が違反行為を反復継続している懲戒事例では、基準の定め方からして、懲戒処分を甘くすることにしてしまう基準であることは間違いないと思います。
と言うのも、複数の懲戒事由に該当する場合の扱いについては、
複数の懲戒事由に該当する場合の取扱い
イ 一の行為が二以上の懲戒事由に該当する場合は、最も思い懲戒事由のランクに基づき処分等のランクを決定するものとする。
ロ 処分等を行うべきニ以上の行為について併せて処分等を行う場合は、最も重い懲戒事由のランクに加重して処分等のランクを決定するものとする。
ただし、同一の懲戒事由に該当する複数の行為については、時間的、場所的接着性や行為態様の類似性等を勘案し、単一の行為と見なしてランクを決定することができる。
と規定されています。
この取扱い基準からすると、
1級建築士が違反行為を反復継続していた場合でも、違反行為中で一番重いランクを基準にして、それにランクが多少加算されるだけのことにしかなりません。
(具体的には、下図の「個別事情による加減表」に記載されているように、
「常習的に行っている」とか、「法律違反等の状態が長期にわたる場合」とかに該当するとして、
ランクが+3 されるだけのことだろうと思われます。)
そのため、違反を反復継続している一級建築士に対する懲戒処分を、甘いものにしてしまうのではないかと考えるわけです。
はじめまして。とてもためになるブログです。
ところで、施工主をはじめとする市民が、違反建築をされてしまった場合、設計に当たった建築士は、弁護士と同じく懲戒請求できると思ったところ、どこにもそういう文書の書き方や流れの解説が見当たらないです。
そうなると、どういう根拠に基づいて、国交省は懲戒処分を食らわせるのでしょうか?
市民が所定の請求書→市町村→国交省→国交省審議会→処分決定、と理解してよいのでしょうか。
by ぺん (2015-06-02 04:17)