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司法委員との評議 [はてな?]

司法研修所編 「簡易裁判所における交通損害賠償訴訟事件の審理・判決に関する研究」が法曹界から出版されました。
 
 
審理に関する 「司法委員の活用」の項(同書31頁)には、
 
(4) 司法委員との評議 
 
   司法委員に, 事故態様の認定, 過失割合の判断及び損害額等について意見を述べてもらったり, 和解の補助をしてもらったりするためには, 司法委員との評議を充実させることが必要不可欠である。
 
司法委員を通じて和解案を提示する方法と, 司法委員を同席させて裁判官が和解案を提示する方法があるが, いずれにしても裁判官と司法委員と間で, 事故態様, 証拠評価, 損害額, 和解の方向性等について十分に事前評議を行い, 共通認識を形成しておくことが肝要である。
   
また, 司法委員を通じて和解交渉を行っている途中で, 当事者から新たな主張や証拠が提出されたときは, 改めて裁判官と中間評議を行うべきであって, 司法委員が個人的見解を表明しないように留意しなければならない。これは指定する司法委員が専門家司法委員であっても同様である。
   
  また, 司法委員の意見は, 裁判官の判断作用を補佐するのが目的であり, 実質的に裁判官の合議に類するものであるから, 法廷で公表されるものではないこと, 司法委員の意見を証拠資料とすることはできないことにも留意する必要がある。
     

と書かれています。

 

「司法委員の意見は実質的に合議に類するもの」だということですが、

基本法コンメンタール [第三版]民事訴訟法 2 の 第279条の 意見聴取 の解説(349頁)には、    

「司法委員の意見はあくまで裁判の参考に供するにすぎないが、意見聴取は実質的に合議に似るものがあるから、外部に知られない方法で聴取すべきである」 

と書かれています。

簡易裁判所裁判官は、司法委員からの意見聴取を、外部から合議しているんだと誤解をされないよう、意見聴取はこっそりとしないといけないとの戒めているかのように読めます。

 

ちなみに、裁判所のホームページでも、司法委員の意見は「あくまで参考意見」に過ぎない書かれています(「司法委員」の項参照)。

 

研究の「意見聴取は実質は合議」との見解は、これまでの考えたとは一線を画す 一歩踏み込んだ見解ではないかと思いましたが、これが現在の定説だということなのでしょうか。

   

合議率 10 % [感想]

地裁の民事の単独事件が 2件、合議での審理に変更となりました。

2件とも 「なぜなの」との違和感を持ちました。    

平成27年7月10日公表の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第6回)」では、「合議体による審理の充実」が声高に述べられていますが、そのせいなのでしょうか。

 

「合議率」をキーワードにして、国会会議録検索システムで検索をしてみますと(検索期間は平成1年1月1日から)、

11件の記事録がヒットします。いずれも法務委員会の議事録です。 

 

何本かの議事録を斜め読みしてみると、

最高裁は、平成13 年4月16日付の「裁判所の人的体制の充実について(司法制度改革審議会からの照会に対する回答)」以降、

①  専門訴訟をはじめとする複雑訴訟に対応するため合議率を大幅アップする(現在の約2倍。約5%から10%へ)

 

②  判決までに平均20か月以上かかっていた 人証調べのある地裁民事訴訟の審理を1年以内に終了できるようにする

ことを、裁判官の増員の必要性の根拠としているようです。

 

それから15年経つわけですが、平成28年3月16日の衆議院法務委員会における中村愼最高裁判所長官代理者の答弁によれば、 

合議率は4.7%

人証のある対席判決の事件の審理期間は平均20.1ヶ月 

ということです。 裁判官の増員は何だったのでしょう。

 

判事の定員の年次推移は下表のとおり。平成13年は 1,390人だったのが、平成28年は 1,985人で 5割増です。

  データ訂正+20170127.jpg

 合議率だけでも嵩上げしたいという意向が、現場を突き動かしているのでしょうか。

 

 (判事補の定員が平成10年改正で20人増、同11年改正で30人増、同12年改正で70人増であったことを見落としていましたので 図を平成29年1月27日に差し替えました。)