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過去は消せない [旬の話題]

(前回の続き) 
 
労働基準監督行政について」では、労働基準監督官の人員数、監督業務の実施状況が説明されていますが、いかんせん、説明はここ数年の状況に限られています。 
 
 
労働基準法が制定・施行されたのは昭和22年(1947年)なので、施行から 60年経過します。かつては どんなだったのでしょうか。
 
そんな好奇心を満たすには 大学図書館に行って 労働基準監督年報を捲らないといけませんが、幸いなことに、労働基準監督年報のうちの、ほんの一部が電子書籍化されていて、インターネット上で読むことが可能となっています。
 
そんな中の一つに、「労働基準監督年報第5回(昭和27年) 」がありますが、それには、昭和22年から昭和27年まで期間における 労働基準監督官の定数や、監督業務の実施状況、対象事業場数、対象労働者数が全て掲載されています。
 
それを使えば、労働基準法施行当初の数年間の労働基準監督行政の実施状況の統計的なデータを得ることが可能です。
       
    
それでは、以下では、「労働基準監督年報第5回(昭和27年)」を使って、労働基準監督署に配置された労働基準監督官の定数 、定期監督、申告監督、司法処分の各監督業務の実施状況を比較してみることにします。
 
 
まず、労働基準監督署に配置された労働基準監督官の定員ですが、平成25年から平成28年の 労働基準監督署に配置されている 労働基準監督官の定数の年次推移は、下図のとおりだということです。
 
つまり、3,198人 → 3,207人 → 3,219人 → 3,241人 に毎年微増だということです。
 
労働基準監督官数の推移.jpg 
 
    
では、昭和27年当時では、労働基準監督署に配置された労働基準監督官の数はどの程度だったのでしょう。
  
「労働基準監督年報第5回(昭和27年)」の第2表によると、昭和22年(1947年)から昭和27年(1952年)までの 労働基準監督署に配置された労働基準監督官の定員は 下図のとおりであったということになります。
 
昭和22年    1,292人
 
昭和23年    1,292人
 
昭和24年    1,418人
 
昭和25年    1,759人
 
昭和26年    1,759人
 
昭和27年    1,655人 
 
 
 労働基準監督官の定員数推移(s23-27).jpg
 
この結果ですが、昭和22年~27年当時は、労働基準監督署に配置された労働基準監督官の定員は、せいぜい、1,700人程度ということになり、3,200人の労働基準監督官が配置されている現時の半数程度しか、労働基準監督官は労働基準監督署に配置されていいないことを示しています。
      
労働基準監督署の労働基準監督官の数が2倍になったわけですので、現場で監督業務を担当する労働基準監督官の配置は、昭和20年時と比べて、手厚くなったと言えそうではありますが、大事な判断要素を見落としています。
   
それは、現時の労働基準監督業務の 適用事業場数は 428万事業場、適用労働者数は 5,200万人であるのに対し(平成27年労働基準監督年報(第68回)の38、39頁参照)、
 
昭和27年当時は (推定)適用事業場数は  93万5979 事業場、適用労働者は 1079万5022人に過ぎなかったということです(労働基準監督年報第5回(昭和27年)の22、27頁を各参照して下さい。)。
 
どういうことかと言いますと、今から55年前の昭和27年当時は、労働基準監督業務の実施対象事業場数も労働者数も、現在の5分の1でした。反対に言えば、労働基準監督官の監督業務の業務範囲は、55年前と比べ、5倍になっているということです。
 
労働基準監督業務の対象が5倍になったのに、業務を担当する労働基準監督官を2倍に増員すれば、増員としては十分だと言えるのでしょうか。少数精鋭と言っても限度があるはずで、2倍の増員では手薄になっているというのが常識的な判断ではないでしょうか。
   
 
     
   次に、労働基準監督官の監督業務の実施状況の方ですが、平成25年から27年は下図のとおりだたっということです。
 
 監督業務の実施状況.jpg
 
 
それに対して、55年前の 昭和27年当時はどうだったのでしょう。
    
 
定期監督と申告監督については下図のとおりだったということです。
 
定期監督の 監督事業場数は、
 
   昭和23年  181,636 
 
   昭和24年  377,241
 
   昭和25年  252,049
 
   昭和26年  244,601
 
   昭和27年  211,297 
 
ということだったということですので、今よりも 定期監督の 事業場数は 多いことになります。
 
申告監督の方についても、昭和22年から昭和27年では、
 
  9,681 → 27,754 → 39,410 → 28,197 → 28,983 
 
という件数ということになりますので、やはり、今より 実施件数が多いことになります。
   
「昔の労働基準監督官は今よりも 2倍以上の働きをしていた」ということなのでしょうか。 
 
   
監督種類別違反事業場数等(s23-27).jpg 
 
 
最後に、司法処分ですが、
 
昭和23年から昭和27年までの 送致件数  起訴件数は、
 
                送致件数  起訴件数 
昭和23年      240件      100件
 
昭和24年   1,094件      522件 
 
昭和25年      960件      438件
 
昭和26年      602件      402件
 
昭和27年      391件      194件
 
ということでしたので、処理状況は現時と変わらなさそうです。
 
やはり倍の働きをしていたということになるのでしょうか。 
 
労働基準司法警察事務処理状況(s22-27).jpg 
     
 
     
厚労省としては 社会に必要とされている 労働基準監督業務を過不足なく遂行していると言いたいのでしょうが、5倍となった業務を、2倍に増やした労働基準監督官に処理させているわけですから、その主張は正しいと言えるのでしょうか。