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同性同名の別人に訴状を送達した事例 [検討]

医療機関債の詐欺事件に関連した、民事事件で、

被告でない別人に、訴状が送達されたことを一昨日(18日)、読売新聞が報じています(YOMIURI ONLINEの記事「損害賠償提訴の相手、同姓同名の別人だった」参照)。

記事によると、

埼玉県志木市の職員が、原告代理人弁護士の住民票の写しの職務等請求に対し、誤って同姓同名の別人の住民票を送付した

のが原因だとのことです。

そして、その顛末ですが、

(志木)市は「重大な過ちを犯し、申し訳ない」と平謝り。

原告側は訴えを取り下げた。

となったとのことです。

    

   

今年2月 全国弁護士協同組合連合会(全弁協)から

弁護士賠償責任保険事例集【簡易版】

という題名の本が送られてきました。

この本は、「はじめに」に、

弁護士賠償保健で取り扱われた事例を項目で分類し、弁護士の業務にかかるヒヤリハット事例を把握できるように編集しました 

と書いてあるとおり、

実際、弁護士賠償責任保険の保険請求がなされた実例を集め、一冊の本としたものです。

   

 

この実例集には、さきほどの読売新聞の記事に似た事例が掲載されています(同書86~87頁)。

5-(7) 同性同名の別人に対して訴状を送達してしまった事例

とのもので、

原告代理人の弁護士が、第1回口頭弁論期日に出頭した(被告ではない、)別人から慰謝料請求を受け、訴訟外で10万円を支払うとの内容で示談が成立し、同額が保険金として支払われた。

ちなみに、訴訟自体は、真実の被告に対し、あらたに訴状の送達が(裁判所から)なされた。 

と解説されています。

また、この事例における弁護士の対応に関しては、

住民票取寄せの申請を行った住所と役所から送付されてきた住民票の住所が、かなり似通っていることがミスの一因ではあるが、やはり住所が異なっている以上、両住所地の両者が同一人物か否かの確認をすべきであったと思われる。

とのコメントが付けられています。

別人への訴状の送達が、弁護士の別人に対する損害賠償義務を生じさせることを認め、保険金の支払いがなされたというものとなりますが、弁護士に対して厳しい判断がなされています。

事案の概要は、

弁護士から「 B市南町1-2-1  甲野太郎 」の請求がされたのに、被告とは別人である、「 B市南町1-2-3  甲野太郎 」の住民票を交付した。

弁護士は、「 B市南町1-2-3 甲野太郎 」を、被告だと鵜呑みにし、訴状が被告とは別人に送達されることになった

というもので、市の職員の大ポカが一番の原因です。

そんな案件で、弁護士に「責任あり」とされているわけです。

    

この弁護士賠償保険の事案は、

弁護士から、氏名と転居前の住所により「請求に係る者」を特定した職務等請求がなされたが、 市の職員が用紙に記載された住所を読み違えて、別の住所に住む、同性同名の別人の住民票を交付した。

弁護士は送付されてきた住民票が被告の住所だと間違えた。

ということになります。

読売新聞の記事の事案は、

同一市内での被告の転居があった案件についてのもので、

市の職員が、被告の転居前の住所を手掛かりにして、転居後の新しい住所を調べて、その転居後の住所が記された住民票を交付すべきところ、

ミスをして、別人の住民票を交付した。

弁護士は送付されてきた住民票が被告の住所だと間違えた。

というものです。

ですので、市の職員が、職務等請求用紙に書かれている甲野太郎の住所「B市南町1-2-1 」を、「B市南町1-2-3」と読み違えて、住民票を出してしまった事例集の事案とは、事案として全く同一であるとは言えません。 

     

    

とは言え、いずれの事案も、市役所から交付を受けた住民票には、

現時点の住所のほかに、転入前(ないし転居前)の住所が、書かれており、

また、生年月日も書かれている、

という点では一緒です。

    

      

読売の記事の事案でも、弁護士が志木市から新たに交付された住民票に よく目を通していれば、

市から交付を受けた住民票に書かれている被告の住所と、従前の住所とが連続していない

ことに気付いたのではないかと思われます。

弁護士賠償責任保険事例集が示す、

原告代理人である弁護士には、住所が異なる同姓同名の者が、被告と同一人物であるか否かについて確認義務がある、

との判断基準にしたがったとして、

読売新聞の大阪の事例では、

原告代理人弁護士に確認義務違反があったということにならないのでしょうか。

何となく、微妙な気がします。

    

また、大阪の事案では、原告は訴訟を取り下げてもいるようですが、なせなのでしょう。