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国税庁の統計情報 [検討]

    

兵庫県内の姫路、豊岡、柏原、洲本の4税務署が、今年6月27日、兵庫県教育委員会(県教委)に対し、

県教委が臨時教員に支払った退職手当が、課税対象の給与所得に当たるとして、

2007~2010年度の延べ 1530人分の源泉所得税と不納付加算税計1574万3千円を支払うよう納税告知処分をし、

それに対し、県教委は処分を不服とし、今年8月15日に4税務署長に異議申し立てをしていました(神戸新聞の8月17日の記事「臨時教員の退職手当は課税対象 県教委に納税告知処分」)。

この県教委の異議申して立てに対し、4税務署は今月1日、県教委の異議申し立てを認め、処分を取り消したということだそうです。

    

この朝日新聞デジタルの記事もそうですが、

産経ニュースWESTの記事(「国税側が課税処分取り消し 臨時教員の退職手当めぐり 軍配は兵庫県教委に」も、

国税当局が課税処分を取り消すのは極めて異例

とまず報じた上で、

4税務署を管轄する大阪国税局は「個別の事案なのでコメントできない」としている

と、大阪国税局担当者のコメントを載せています。

その上で、さらに、

国税庁によると、平成23年度の異議申し立ての処理件数は4511件で、そのうち申立人の主張が一部認められたのは331件。全部認められたのはわずか44件だけで、全体の1%にも満たない

との記事を載せています。

記事の「国税庁によると」とは、国税庁の担当者からとったコメントなのでしょうか。

それとも、記者が税務統計を調べて得た、データを評してのことなのでしょうか。

朝日デジタルも、産経ニュースWEST も全く同じ表現なので、

国税庁の人が複数の記者の前で、そのようなコメントを発したとも考えられます。

でも、そうだとすると

なぜ、国税庁の担当者は、そんな発言をしたのかが、理解できません。

「統計上、異議申立てを全面的に容れて、課税を取消したケースは極めて少ない」から、どうだと言うのでしょうか。

発言の趣旨がよく分かりません。

  

(なお、記事では申立人の主張が全部認められた割合だけを取り上げていますが、

申立人の主張が一部でも認められている割合は、8.3%(=(331件+44件)/4511件)ということなので、

12人に1人の割合で、申立人の主張の一部が認められているということになります。この割合は少なくないと言えるのではなでしょうか。)

     

ところで、平成23年度の異議申し立ての処理件数が4511件、申立人の主張が一部認められた件数が331件、全部認められた件数が44件とのデータは、

国税庁のホームページの統計情報「その他」「〇不服審査、訴訟事件」のページの異議申立てに関する統計資料から引用されたものです。

下図は、その国税庁作成の統計資料の「〇不服審査、訴訟事件」の「19-1不服審査(1)異議申立て」の部分を引用したものです。

同図の赤で囲った数字が、記事の「 4511 件」、「 331 件」、「 44件」 になります。

つまり、「4511件」は下図の「本年度処理済件数」のことを、「331件」は「一部取消件数」を、また、「44件」は「全部取消件数」のことであったことになります。

税務統計・異議申立て.jpg

   

  

朝日と産経が記事上で、取り上げている異議申立ての件数は、全ての税目についての異議申立ての件数を合算した件数となっています。

つまり、税目の違いは無視されているわけです。

ところで、今回の兵庫県の県教委と税務署で問題となっていたのは源泉所得税に関してです。

源泉所得税という税目についての異議申立てであったわけです。

税務統計では、税目ごとの異議申立件数等の統計も揃っています。

 

  

したがって、源泉所得税に関する異議申立ての件数、申立人が主張が(一部ないし全部)認められた件数は全て把握できます。

源泉所得税の異議申立てに関する統計資料が揃っているのに、わざわざ、その統計を使わないで、各税目ごとの異議申立て件数を集計した資料を使って、今回の異議申立てについて論ずるのは筋を違えているのではないかと考えます。

なぜなら、源泉所得税の異議申立てについては、他の税目との違いがあるかもしれないのに、それを鼻から無視することになると考えるからです。  

   

   

そこで、源泉所得税に関する異議申立件数等を、税務統計から抜き出してみます。

その結果は上図の紫色で囲ってある数字となります。

つまり、

処理件数は計93件、

うち、申立人の主張が全部認められた件数は2件、一部認められた件数は11件、

ということになります。

これは、申立人の主張が全部認められた割合が2.1%(=2件/93件)という結果となります。

申立人の主張が全部認められた割合は、源泉所得税に関した異議申立ての場合でも、さほど割合は変わらないと言えるかも知れません。

ですが、申立人の主張が一部でも認められた割合で見てみますと、その割合は14.0%(=(11件+2件)/93件)ということになります。

7人に1人の割合で、申立人の主張が一部は認められていることになります。

また、今回の源泉の問題は、オール・オア・ナッシングの問題ですので、申立てが認めらることになれば、申立人側の主張が全て認められることになります。

認められるのが一部か、全部かという分類には適さないと言えます。   

                 

記事では、

国税当局が課税処分を取り消すのは極めて異例

と報じていますが、本当に異例と言えるのでしょうか。